私は、行政職員として産業振興、スタートアップ支援、DX、組織運営に携わりながら、20年以上、地域の議員の方々とさまざまな場面で関わってきました。
有難いことに個別のご連絡をいただくことも多く、日頃から意見交換をしたり、地域課題や政策について相談を受けることも少なくありません。
そうした関わりを通じて感じるのは、議員の皆さんは本当に地域のことを思い、日ごろから地道な活動をされているということ。
住民の相談に乗り、地域のボランティア活動に参加し、登下校の子供たちを見守る、特に私が知っている議員の皆さんは、勉強熱心で謙虚な方が多いという印象でした。
もしかすると、この印象は一般的な「議員」の印象とは異なるのかもしれません。
今回の記事では、行政職員にとって、「議員」はどのような存在なのか、リアルな視点からお伝えしてみたいと思います。
これを知ることにより、議員との連携による行政へのアプローチもより良いものになるのではないかと思います。
一般には、議員は「行政に働きかける立場」や「地域の声を届ける窓口」として知られています。
多くの議員は、地域の現場を歩き、市民の声を直接聞きながら、行政の見落としがちな課題を指摘してくれます。
そうしたやり取りは、行政職員にとっても重要な学びの機会です。
私は、議員を“行政に影響を与える立場”としてだけではなく、“地域の課題解決をともに考えるパートナー”として見ています。
行政と議員は立場こそ異なりますが、目指している方向は同じです。
それは「地域をより良くしていくこと」。
この共通の目的を意識して関わることで、行政と議員の協働はより建設的なものになると感じています。
議員は、行政の意思決定に直接関与する立場にはありませんが、大きな影響力を持っています。
つまり、市民の声を制度や政策に反映させるために極めて重要な役割を担っています。
制度上、議員の主な職務は「提案」「監視」「代弁」です。
定例会での一般質問や予算審査を通じて、行政の方針や施策を検証し、改善を促す立場にあります。
また、地域住民の声を行政に届けることで、現場の課題を可視化する機能も果たしています。
行政職員の立場から見ると、議員の発言によって新しい課題が明確になることも少なくありません。
一つの質問が、担当課の中で「市民がこの点をどう感じているのか」という気づきを生み、
既存の制度や運用を見直す契機になることもあります。
私がスタートアップ支援施策を担当していたとき、ある議員の方が非常に熱心に話を聞いてくださいました。
施策内容を説明していると、「とても素晴らしい取り組みだが、市民はまずカタカナが分からない。クオリティを一気に上げすぎると、かえって理解が追いつかないのではないか」と言われたことがあります。
その言葉をきっかけに、私は“行政が進める理想”と“市民が受け取る現実”との間にあるギャップを改めて考えるようになりました。
議員は、市民の感覚を行政に橋渡しする存在であり、その指摘が制度設計をより現実的なものに導いてくれるのだと感じた瞬間でした。
議員の指摘や提案をどう受け止め、どのように制度に反映させていくか。
そのプロセスを通じて行政は、市民との接点を広げ、政策の質を高めていくことができると感じています。
行政と議員は、ともに地域の課題解決を目的としています。
ただし、重視する視点と時間軸が異なります。
行政は、制度の整合性や公平性、持続可能性を重視します。
一度の判断が将来の前例となるため、短期的な成果よりも「再現性」や「安定性」を優先する文化があります。
職員にとっての責任とは、個人の判断ではなく、組織としての説明責任を果たすことにあります。
一方、議員は市民の声を直接受け取り、スピードや実行力を重視します。
「今困っている人を助けたい」「仕組みを変えたい」という現場の課題意識が行動の原動力になっています。
このため、行政の慎重な手続きと議員の迅速な対応姿勢のあいだに、進め方の違いが生じることがあります。
こうした違いは、それぞれの立場が果たす役割の違いから生まれるものです。
行政が制度の中で安定的な運用を求める一方、議員は現場からの即応を求める。
どちらも地域に必要な視点であり、両者のバランスによって政策の実効性が高まると感じています。
行政の現場で多くの議員と接してきた経験から感じるのは、
信頼関係を築ける議員にはいくつかの共通点があるということです。
第一に、課題を感情ではなく事実に基づいて整理し、冷静に伝えてくれること。
行政には制度上の制約や調整の手順があるため、具体的な根拠や背景を共有できる議員とは、建設的な議論がしやすくなります。
第二に、行政の立場や内部の仕組みを理解したうえで提案してくれること。
現場の制約を踏まえながら、「どのようにすれば実現できるか」を一緒に考えてくれる姿勢は、職員にとって大きな支えになります。
第三に、市民の意見をそのまま持ち込むのではなく、制度に反映できる形に整理して伝えてくれること。
行政にとって、市民の声を“制度化できる表現”に変換して届けてくれる議員の存在は貴重です。
こうした議員とのやり取りは、行政内部の検討を前向きに進めるうえで大きな後押しになります。
相互の理解と誠実な対話の積み重ねが、より良い協働を生み出す基盤になると感じています。
行政と議員、そして市民、さらに民間が連携して地域課題に取り組むためには、
それぞれの立場が果たす役割を理解し、互いに補完し合う関係づくりが重要です。
行政は制度や予算の観点から「説明責任」を果たす立場にあり、
議員は市民の声を行政に届ける「橋渡し役」として機能します。
市民は地域課題の当事者として「参加」と「協働」に関わる存在です。
そして、民間は現場の「実践力」やス「ピード感」を持ち込み、
行政では手の届きにくい部分を補う重要なパートナーです。
この四者がそれぞれの強みを認識したうえで、情報を共有し、
共通の目的に向かって行動することで、地域課題はより現実的かつ持続的に解決へと近づきます。
行政の視点から言えば、こうした関係を支えるのは“対話の場”の設計です。
制度の説明、意見交換、合意形成のそれぞれの段階で、相互理解を深める機会を意識的に設けることが、
信頼に基づく協働の第一歩になると考えています。
議員は、地域の課題を行政に届ける重要な存在です。
行政の内部にいると見落としがちな声を拾い上げ、現場と制度をつなぐ役割を果たしています。
行政と議員の関係は、立場の違いから難しさを伴うこともありますが、
根底には「地域を良くしたい」という共通の目的があります。
それぞれの立場を尊重しながら協働を積み重ねることで、地域にとってより良い成果が生まれていくと感じています。
これからも、行政のリアルを伝えながら、
行政・議員・民間それぞれの立場をつなぐ“現場の知見”を発信していきたいと思います。
地域の未来は、制度でも立場でもなく、“信頼と共創”の中にこそ育っていくと感じています。