企業が行政に提案を持ち込むとき、「議員を通したほうが早い」と耳にすることがあります。しかし、その一方で、議員が関与しても「なかなか話が進まなかった」という声もあります。
私はこれまで行政職員として、多くの官民共創の案件に携わってきました。その中で感じるのは、企業が議員と連携したことで安心してしまうと、行政の中で進まなくなってしまうリスクがあるということ。
一方で、行政組織の仕組みと職員心理を理解して進めることで議員連携は非常に強力な推進力になります。
今回は、自治体内部のリアルな意思決定の構造をもとに、「議員を通して一気に進んだ場合」と「進まなくなる場合」の違いを、自治体職員の視点から整理してみます。
行政という組織は、外から見ると明確なピラミッドのように見えます。上司の決裁を経て、部長、副市長、市長へと順に上がっていく。そして「誰が言うか」で物事が決まる、そう感じる人も多いのではないでしょうか。
確かに、議員の発言や部長・市長クラスの判断が、現場の動きを左右する場面は少なくありません。実際、市長や議員の関心が高い案件は優先的に検討される傾向があります。しかし、行政はそれだけで動くわけではありません。
行政の内部には、「決裁を取る」ための調整と納得のプロセスが存在します。一つの提案を実行に移すには、同じ課の中だけでなく、他部署、さらには関連する外部機関との調整が必要になります。
なぜなら、行政の意思決定は、単に上層の意向で決まるのではなく、これまでの施策の経緯や予算、他部署との整合性、市民や他の事業者への影響を踏まえて慎重に判断されるからです。
つまり、誰が言うかは確かに影響力を持つものの、最終的に「どう調整し、誰が納得しているか」が行政を動かす鍵になります。
議員の打ち込みが最も効くのは「関係部署の合意形成を後押しする」意見として機能する場合。「議員の言葉で関係部署が納得した」という形にすることが話を進めるうえで重要なポイントになるのです。
議員からの依頼や紹介案件は、行政の中で特別な扱いになります。議員が関与することで、上司や管理職の関心が高まり、案件の優先度が上がることは間違いありません。議員の同席や紹介がある時点で、その案件は「通常の企業訪問」ではなく「注視すべき案件」として扱われます。
一方で、こうした案件は管理職にとってナーバスな領域でもあります。なぜなら、それが単なる業務ではなく「政治的案件」として認識されるからです。
政治的な要素が強い案件は、判断を誤ると組織全体に影響を及ぼす可能性があります。とくに課長クラスの管理職にとっては、「誰が責任を取るのか」「他部局の理解は得られるか」といった慎重な見極めが求められるのです。
そのため、たとえ内容が優れた提案であっても、「政治的にセンシティブな案件」と判断されると、内部で複数の部署を巻き込んだ確認や調整が必要となり、結果として進みが遅くなることもあります。
議員連携の際にはそうならないように勘所を押さえる必要があります。
行政組織には、制度や予算、手続きの正確性を重視する文化があります。それ自体は健全な仕組みですが、現場の担当者の中には、提案内容の本質や意義を十分に理解できず「例年の枠にない」「前例がない」という理由で止めてしまうケースも少なくありません。
官民共創においてはせっかく良い提案なのに理解されないまま止まるのが最大のボトルネックになります。
そこで鍵を握るのが議員の存在です。議員を単なる「味方」として巻き込むのではなく、行政組織の中で意図を伝える「翻訳者」として関与してもらう。行政の論理やタイミングを踏まえつつ、議員のネットワークや発言の機会を活かして、提案の背景や目的を適切なキーマンまで届けてもらうことです。
企業側は、議員の発言や行政計画から関心のある政策テーマを読み取り、自社の提案を「いま行政組織が注目している課題」と結びつけると効果的です。行政には年度ごとの予算サイクルや人事異動のタイミングがあるため、その「時間の流れ」を理解したうえで、議員と協調しながら要所で行政を動かす。
それが議員と連携した官民連携のポイントです。
議員も、行政も、企業も、立場やアプローチは違っていても、最終的な目的は同じです。それは、地域をより良くしていくこと。
しかし、現実にはそれぞれの立場で使う「言葉」や「時間の流れ」、そして「成果の捉え方」が異なります。行政は慎重に、制度と整合性を取りながら進め、議員は市民の声を背景にスピード感を求め、企業は事業としての実行性や収益性を重視する。そのリズムの違いが、しばしば誤解やすれ違いを生みます。
官民連携を成功させるために必要なのは、その「違い」を埋めること。企業・議員・行政のそれぞれが互いの立場を理解し合うことが、官民共創を通じた地域の課題解決への第一歩です。
元行政職員として、今後も現場の経験をもとに、行政のリアルや協働のヒントをお伝えしていきたいと思います。