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行政と協働を成功させる鍵は、「実務キーマン」にある ― 現場を理解するための正しいアプローチ ―

作成者: M.K|Nov 27, 2025 11:59:59 PM

行政と協働しようとする企業の多くが抱える前提に、
「市長を押さえれば通りやすいのでは?」
「課長とのアポさえ取れれば話は早いはず」
という認識があります。

確かに、市長・副市長・部長・課長などの管理職との接点は重要で、
組織全体を動かすうえでは欠かせません。

しかし行政の現場にいると痛感しますが、管理職の承認だけではプロジェクトは前に進まないというのが現実です。

実際には、行政の意思決定には
「管理職の判断」 「現場の実務判断」
の両方が必須であり、この二層が噛み合わない限り、施策は動きません。

特に重要なのが、外部から見えにくい立場である
実務キーマン(中堅の実務担当者)の存在です。

今回の記事では、行政内部の構造と実務キーマンの役割、そして民間企業がどう関われば良いのかを、行政現場に長く携わってきた立場から解説します。

1. 行政組織は「課長=すべてを決める人」ではない

行政機関では、課長は確かに責任者であり、最終的な決裁権限を持っています。
しかし、その判断は“現場の意見”なしには成立しません。

(1)課長が見ているのは「制度・議会・全体方針」

課長は主に次のような視座で判断します。

  • 議会で説明可能か

  • 法令や制度に整合性があるか

  • 市全体の予算配分との調和

  • リスク(苦情・監査・政治的影響)

  • 他部局との調整

行政における管理職は、組織の外側、つまり
「議会」「市民全体」「制度」
を見て判断しています。

(2)一方で、実務担当者が見ているのは「現場」

  • 市民のリアルな声

  • 業務フローのどこに負荷があるか

  • 何ができて、何ができないのか

  • 過去のトラブル事例

  • 実際の手続きに必要なリソース

つまり、行政の決定は
外側(管理職) × 内側(現場)


この両輪が揃って初めて回る仕組み
です。

2. 実際に行政を動かしているのは「実務キーマン」

多くの自治体では、課長は2年程度で異動します。
しかし、実務担当者には10年以上同じ業務に関わっている職員も多く存在します。

その中には必ず、

  • 業務フローを最も理解している人

  • 市民対応の蓄積がある人

  • 課長が「まず相談する」中核の職員

  • 課の実務レベルでの意思決定を左右する人

がいます。

この「実務キーマン」こそ、
行政の意思決定の実質的なパワーを持つ存在です。

課長がどれだけ前向きでも、
実務キーマンが「これは現場では無理」「リスクが高い」と判断すれば、
その案件は動きません。

反対に、実務キーマンが納得していれば、
課長の意思決定は驚くほど速くなります。

これは行政内部で働いていると常識ですが、
外部からはほとんど見えません。

3. 企業がつまずく典型例 ― 「市長を押さえれば勝ち」式アプローチ

よくある失敗は以下のパターンです。

  1. 市長・副市長・課長と仲良くなる

  2. トップが前向きなので企業は安心する

  3. 実務調整の段階になり、現場が全く理解していないことが発覚

  4. 現場が「これは難しい」「負担が大きい」と判断

  5. 調整が進まず、最終的にプロジェクトが停止

  6. 企業側は「行政は動きが遅い」と感じる

 

しかし真実は、
行政が遅いのではなく、押さえる相手を間違えているだけです。

管理職の承認は入口であり、
実務キーマンの納得こそが「鍵」

これまで何度も「トップを押さえれば勝ち」式のアプローチを見てきましたが、
最初はうまく進んでいるように見えても、長続きしないケースがほとんどです。

このアプローチがうまく行くのは、トップが現場の構造まで理解し、
明確な意思を持って進めている極めてレアな例に限られるように思います。

ここにもう一つ、忘れてはならない存在があります。
それが「議員」の存在です。

行政組織内では、実務キーマンが市民との協働や企業連携において大きな役割を果たしているにも関わらず、必ずしも適切に評価されない構造が生まれることがあります。

そうしたとき、議員が市民や企業の声を通じて、実務キーマンの取り組みを客観的に後押しすることは、組織内の力学を円滑にする「潤滑油」として機能するケースもあります。

4. なぜ実務キーマンとの関係構築が不可欠なのか?

① 現場の課題感を正しく把握できる

企業の提案は、美しいロジックでも“現場に合わない”と進みません。
実務キーマンの知見は、その現場固有の課題を理解するための最重要情報源です。

② 行政の本質的な悩みにフィットした提案ができる

実務キーマンの話を聞いてから提案すると、課長にも響く“深い提案”になります。

③ 課長との打ち合わせが本質的な議論になる

現場理解を踏まえた提案は、管理職から見ると説得力が段違いです。

④ 実務キーマンが内部で後押ししてくれる

行政は内部合意が最重要。
現場が“この企業は現場を理解している”と感じると、課長の意思決定も加速します。

つまり、
行政との協働成功率は「現場理解」と強い相関があるのです。

5. 実務キーマンと接点をつくる4つの具体的アプローチ

(1)現場目線の小さなテーマで相談する

「現場の負荷を減らすアイデアを一緒に考えたい」
こうした提案は実務担当者が心を開きやすい。

(2)机上の空論ではなく運用視点の提案を持っていく

具体的な業務フローに落とし込んだ提案は、現場が最も評価する。

(3)課長アポでも“実務キーマンを巻き込む導線”を設計する

「担当の方にも一度話を伺いたい」
これは課長にとっても安心材料になる。

(4)会議中の反応を観察し、「誰が課長を動かしているか」を見極める

課長が誰の説明に頷くかを見れば、実務キーマンはすぐに分かる。

6. 結論 ― 行政協働の成功は『現場を押さえられるか』で決まる

行政は、トップとの関係だけでは動きません。
課長は制度・議会・予算を見て判断しますが、
実際の運用を最も理解しているのは“実務キーマン”です。

行政の意思決定は、
制度(管理職) × 現場(実務)
の二層構造で成立しています。

だからこそ、行政と協働しようとする企業は
管理職へのアプローチと同じくらい、実務キーマンとの接点づくりを重視すべきです。

現場の構造を理解し、その課が抱えるリアルな課題感を掴んだうえで提案すれば、
行政側は「この企業は現場を理解している」と強い信頼を寄せます。

行政課題の解決パートナーとして長期的に選ばれる企業は、
例外なく現場との関係構築がうまい企業です。

行政との協働を本気で成功させたい企業こそ、
まず実務キーマンとの対話から始めるべきだと言えるでしょう。