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官民連携の第一歩:企業が理解しておきたい行政の3大キーワード

作成者: M.K|Oct 28, 2025 6:52:32 AM

1.なぜ「行政の言葉」を理解することが重要か

行政と企業が同じ言葉を使っていても、実際には意味や使われ方が異なることがあります。


たとえば「地方創生」「DX推進」「補助金」といった言葉は、ビジネスの場でも頻繁に登場しますが、行政現場ではそれぞれ特有の制度的背景や政策目的を持っています。

官民連携を進める際、こうした行政の文脈を理解しておくことは非常に重要です。

なぜなら、行政の意思決定は「制度」「予算」「合意形成」という複数の条件がそろって初めて動く仕組みになっているからです。
行政職員が事業を進める際には、上位計画との整合性、予算の根拠、議会や関係部局の合意といった手続きを一つずつ確認しなければなりません。

このため、企業がどれほど有意義な提案を行っても、それが行政の制度設計や財政運営の流れに沿っていなければ、実現に向けた議論が進みにくくなります。


逆に言えば、行政の言葉の背後にある「仕組み」や「判断の根拠」を理解して提案することで、行政職員が内部調整を進めやすくなり、協働が現実的に動き出す可能性が高いということです。

行政職員にとっての「成功」とは、単に新しい事業を導入することではなく、予算や施策の整合性を保ちながら、地域全体の持続性を高めることにあります。
企業がこの前提を共有し、行政の立場を踏まえた提案を行うことができれば、相互に信頼できる協働関係を築くことが可能になります。

2.「地方創生」- 全国一律ではない、地域の文脈を重視する考え方

行政現場で「地方創生」と言うとき、それは単なる地域活性化の施策を指すものではありません。
背景には、人口減少・少子高齢化といった全国的課題に加え、「地域の自立的な経営力をどう維持するか」という長期的な視点があります。

このため、地方創生に関する施策は、地域ごとに異なる課題認識やこれまでの経緯の上に成り立っています。
その時々の政治的要因や社会的背景が影響することもあり、全国で一律に進められるものではありません。
企業が参画する際には、「どの地域の」「どの計画(例:総合戦略や地域計画)」に基づき、「どのような状況」で行われる取組なのかを理解しておくことが重要です。

行政が重視するのは、根拠を明確に示す説明責任です。
計画や施策、議会での答弁、予算措置といった積み上げが行政判断の基盤になります。
こうした仕組みを理解している企業は、行政の信頼を得やすく、行政の意図をより的確に読み取ることができます。

3.「DX推進」- 業務効率化ではなく「行政プロセスの再設計」

民間企業では「DX推進」を「業務の効率化」や「新しい顧客体験の創出」として捉えることが多いですが、行政でいうDXは少し異なります。

行政職員にとってDXは、「制度」「業務」「情報」の三層を見直し、手続の根拠となる条例・要綱を含めて再設計する取組を意味します。

たとえば、オンライン申請の導入一つをとっても、法令上の根拠、システム改修費の予算措置、職員の運用ルールなどを同時に整える必要があります。
企業が提案を行う際には、単なるシステム導入ではなく「制度・運用・予算を一体で変えていくプロセス」であることを意識すると、行政側の理解が得られやすくなります。

また、自治体のDXは、国の動向に強く影響を受けます

デジタル庁による基幹業務システムの標準化やガバメントクラウド移行など、国の方針を前提に進められるのが実情です。
自治体が独自に判断できる範囲は限られるため、企業が提案する際には、国のスケジュールや仕様を踏まえた現実的なアプローチが求められます。

4.「補助金・交付金」- 予算措置と政策誘導の仕組みを読む

行政現場で使う「補助金」「交付金」は、いずれも政策目的を達成するための財政手段ですが、性格が異なります。

補助金は「国や自治体が特定の事業を支援するために支出するもの」であり、使途が明確に定められています。

交付金は「自治体が地域の実情に応じて使途を選べる財源」であり、より柔軟な運用が可能です。

企業が理解しておくべきは、行政にとってこれらは「政策誘導の仕組み」であるという点です。

国がどの分野に重点を置いているかを読むことが、事業提案の方向性を考える上で欠かせません。
たとえば、地方創生推進交付金などは、国の政策目標を地方実施へと橋渡しする役割を担っています。

一方で、自治体は国の方針を踏まえつつも、自地域の計画や議会の意向との整合を常に意識しています。

したがって、提案を行う際には「国の政策の方向」「自治体の現場課題」の双方に配慮した構成が有効です。
行政職員は常に根拠と整合性を重視しており、その理解を示すことが信頼を得る鍵となります。

5.官民連携の視点:キーワード理解が信頼関係をつくる

行政と企業の協働を進めるうえで、最も重要なのはキーワードに対する「認識の共有」です。
行政のキーワードを、単なるスローガンとしてではなく、制度や予算の背景にある考え方を踏まえて理解する姿勢が、対話の質を大きく左右します。

行政職員の立場から言えば、そうした理解を示してくれる企業とは、安心して話ができます。

提案内容が具体的であっても、その前提となる行政の仕組みや考え方が共有されていなければ、議論はかみ合いません。
逆に、行政の文脈を踏まえた提案は、内部での検討や調整を進める際にも説得力を持ちます。

官民連携の出発点は、相互に立場を理解し、同じ言葉で目的を語れる状態をつくることです。
行政と企業が、それぞれの立場から共通の目標を見いだし、無理のない形で協働を積み上げていく、その積み重ねこそが、信頼関係を育てる基盤になります。